「うちの子、困っていても、それをうまく言葉にできない」
そんなふうに感じたこと、ありませんか。

小さい子ほど、自分の中で何が起きているのかを言葉にできません。
特にASD(自閉スペクトラム症)のある子は、「困っている」こと自体に気づけなかったり、気づいても誰に・どう伝えたらいいか分からなかったりします。

先日、次女が学校で、自分の口で「大きな音が苦手なんだ」と伝えられました。
ASDのある次女にとって、これはとても大きな一歩でした。

そして、そのきっかけを作ってくれたのは、同じくASDのある姉(長女)でした。
今日はその話を書きます。読み終わったあと、「うちでもできそう」と思ってもらえたら嬉しいです。

始まりは、お姉ちゃんの「ねえ、聞いて」だった

ある木曜日。学校から帰ってきた長女が、ランドセルを置くなり言いました。
「ねえ、聞いて」

心配そうな顔で教えてくれたのは、妹のことでした。
帰り道、次女が男の子に大きな声で叫ばれて、「耳が痛い」と言っていた。長女はそれが気になって、家ですぐに私に伝えてくれました。

あわてて次女に聞いてみると、こくんとうなずきました。
学校の帰り道、お迎えを待っていたときのことでした。同じ学年の男の子が、すぐ近くで何度も大きな声で叫んだそうです。その声で、耳と頭が痛くなってしまいました。

ここで大事なのは、次女自身は、家に帰ってから自分でその話を切り出していないということです。
姉が教えてくれなければ、私はその日の出来事に気づけませんでした。

ASDのある子の困りごとは、こうして「本人の口からは出てこない」ことがよくあります。
痛かった、嫌だった。その気持ちはあるのに、わざわざ報告するという発想がなかったり、もう過ぎたこととして流してしまったりします。

だからこそ、まわりの誰かが「アンテナ」になることが大切です。
今回はそれが、姉でした。姉妹そろってASDですが、妹の異変に気づいて教えてくれた長女の優しさに、私はまず救われました。

耳の奥が痛い──「聴覚過敏」という、見えない困りごと

次女には、聴覚が過敏なところがあります。

聴覚過敏というのは、まわりの人には平気な音でも、本人にとっては頭に刺さるように強く響いてしまう状態のことです。
工事の音、運動会のピストル、誰かの大きな笑い声。私たちが「うるさいな」で済む音が、過敏な子には「痛い」になります。

やっかいなのは、この困りごとが、見た目ではまったく分からないことです。

骨折なら包帯が見えます。熱があれば顔が赤くなります。
でも聴覚過敏は、外からは何も見えません。だから周りの大人にも気づかれにくく、「大げさだな」「我慢が足りない」と誤解されてしまうこともあります。

このとき次女を助けてくれたのは、一緒にお迎えを待っていたお友達でした。
そのお友達が「耳栓したら?」と耳栓をするように勧めてくれて、次女は耳栓を使ったそうです。子ども同士で、ちゃんと助け合えていたことにも、少しほっとしました。

ちなみに次女は今、学校でイヤーマフという耳あての道具も使っています。
工事現場で使うような、まわりの音をやわらげるヘッドホン型のものです。最初は「目立つかな」と私が心配しましたが、本人が「これがあると安心する」と言うので続けています。

苦手な音から自分を守る道具がある。それを知っているだけで、子どもはずいぶん落ち着きます。
「我慢させる」のではなく「道具で守る」。この発想の切り替えが、過敏のある子にはとても大事だと感じています。

ここで一度立ち止まって考えてみてください。
もし、この「聴覚過敏」という困りごとを誰も知らないままだったら、どうなっていたでしょう。

次女はきっと、「学校の帰り道はなんだか怖い場所」「あの子がいると頭が痛くなる」という記憶だけを、理由が分からないまま積み重ねていきます。
やがて、お迎えの時間が憂うつになり、登校そのものがつらくなるかもしれません。

困りごとは、見えないまま放っておくと、子どもの中でどんどん大きくなります。
だから、見える形にしてあげることが、最初の一歩になります。

連絡帳と、担任の先生の素早い動き

姉から話を聞いた翌日、私は連絡帳にその出来事を書いて、担任の先生に伝えました。
放課後には電話でもやり取りしました。

ところが、その日もまた帰り道で叫ばれて、次女は頭が痛いと言って帰ってきました。
正直、少し焦りました。もう一度、連絡帳に書きました。

週明けの月曜日。連絡帳を読んだ先生が、すぐに動いてくれました。
次女から話を聞き、その場に居合わせた子たちにも確認してくれました。

ここで、ひとつ気づいたことがあります。
先生がすぐ動けたのは、「記録」が残っていたからでした。

子どもの困りごとは、後から思い出そうとすると、細かいところがあいまいになります。
「いつ」「どこで」「何が」「誰が見ていたか」。これが日付つきで残っていたから、先生も周りの子に確認しやすかったのだと思います。

ポイントは、書く中身でした。
「最近うちの子がつらそうで……」という親の気持ちではなく、「○月○日、お迎えの場で、男の子に大声で叫ばれて、耳が痛いと言った」という事実を書く。

気持ちだけでは、先生も何を確認すればいいか分かりません。
でも事実なら、誰に・何を聞けばいいかがはっきりします。だから学校も、すぐに具体的に動けます。

記録は、親の「主張」を「確かめられること」に変えてくれます。これは、子どもを守るうえでとても大きな違いです。

そして、自分の口で言えた日

その月曜日のお昼休み。
先生は、叫んでいた男の子と次女と先生の3人で、話し合いの場を作ってくれました。

そこで次女は、自分の口でこう打ち明けました。
「大きな音が苦手なんだ」

先生から男の子へも、「近くで叫ぶと困ってしまうから、やめてほしい」と伝えてくれました。
男の子は「嬉しいと、つい叫んじゃう」と正直に話し、「わかった」と答えてくれたそうです。

私が何より嬉しかったのは、この「次女が自分で言えた」という一点でした。

考えてみてください。
親が代わりに「この子は音が苦手なんです」と説明することは、いつでもできます。でも、それをずっと続けることはできません。

中学生になり、高校生になり、いつか親のいない場所で、次女は自分で自分を守らないといけません。
そのときに必要なのが、「苦手なことを、自分の言葉で伝えていい」という経験です。

専門的には、これを「自分のことを自分で伝える力」と呼んだりします。
難しく考えなくて大丈夫です。要は、「いやだ」「苦手だ」と言っていい、と子ども自身が知っていること。それだけで、子どもの世界はぐっと生きやすくなります。

今回の小さな話し合いは、次女にとって、その力を使う最初の練習になりました。

ただ、ひとつ補っておきたいことがあります。
いきなり「自分で言いなさい」と突き放しても、子どもは動けません。今回も、先生が話し合いの場を整えてくれて、私が記録で後押しして、その安心の中で、次女はようやく言葉にできました。

子どもが自分で伝えられるようになるには、まわりが土台を作ることが先です。
順番を間違えると、「言えなかった」という失敗体験だけが残ってしまいます。土台づくりは、親や先生にしかできない仕事だと思っています。

見えない「困った」を、見える形にしておく

ここまで読んで、「うちの子も似たようなことがあるかも」と思った方へ。
今日から始められることを、ひとつだけお伝えします。

それは、子どもの困りごとに気づいたら、その場で短くメモを残すことです。

完璧な日記を書く必要はありません。
「○月○日、帰り道、男の子に大声で叫ばれて耳が痛いと言った」。これくらいで十分です。

我が家では、夫が、気づいたことをスマホからすぐ残せるしくみを作ってくれています。
スマホのチャットアプリ(Discord)に一言送るだけで、メモ帳ソフト(Obsidian)に自動で日付つきの記録としてたまっていきます。あとから時系列に並べて見返せるようにしてあるそうです。

これがあるだけで、先生への共有が驚くほどラクになりました。
面談の前に「あれ、いつのことだったかな」と記憶をたどる時間も、ぐっと減りました。

道具は、紙のメモでもスマホのメモアプリでも構いません。
大事なのは、「あとで思い出す」のではなく「その場で残す」習慣のほうです。記憶は薄れますが、記録は薄れません。

そしてもうひとつ。
今回いちばんのアンテナになってくれたのは、姉でした。家族みんなが、お互いの「いつもと違う」に気づける雰囲気でいること。これも、立派なしくみのひとつだと思っています。

おわりに

その後は、穏やかな日々が続いています。
次の日、学校で男の子と会ったときには「おはようって言ったよ」と次女が教えてくれました。普通に挨拶を交わせたようで、ほっとしました。

もちろん、これで全部が解決したわけではありません。
聴覚過敏そのものがなくなるわけではないし、また似たことが起きる日もあるかもしれません。

それでも、得たものは確かにありました。
次女は「苦手を、自分の言葉で伝えていい」と知りました。長女は「妹の困りごとに気づいて、伝える」という優しさを見せてくれました。そして私は、「記録しておけば、ちゃんと動ける」と実感できました。

困りごとは、見えないことが多いです。
だからこそ、まわりが気づいて、その場で残して、伝えられるようにしておく。たったそれだけで、子どもが救われる場面は、ぐっと増えます。

(聴覚過敏など感覚の特性は、子どもによって出方がさまざまです。気になる場合は、かかりつけ医や専門機関にも相談してみてくださいね。)

ここで紹介した「送るだけで記録がたまるしくみ」も、もとは夫が私のために作ってくれたものでした。おかげで気持ちがラクになり、先生との連携もずいぶんスムーズになりました。
もし「うちもこんな記録のしくみが欲しいけれど、どう作ればいいか分からない」という方がいれば、おすそ分けするような気持ちでお手伝いできたらと思っています。Coconalaでご相談を受け付けているので、どんな悩みをラクにしたいか、それだけ教えていただければ大丈夫です。

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